【作業日誌】Martin LXM ”Little Martin” 割れ・剥がれリペア

こんにちは。ミラージュリーフクラフトワークスの永野です。今回は「Little Martin」ことMartin LXMの各種リペアの様子を投稿します。

ちょっと小ぶり、しかし伝統のマーチンです
木目をプリントしたHPLが使用されています

ミニサイズのアコースティックギターなのですが、サイズの割にはサウンドもしっかりしており、かつ値段も手ごろという良いとこどりの人気ギターですね。通称「ドレッドノート」といわれる様式のアコギをそのままサイズダウンした感じなのですが、ボディ材には「HPL」(ハイプレッシャーラミネート)という代替材が使われていたり、ネックには「Stratabond」(ストラタボンド)という合板が使われています。通常の木材だと値段もそれなりにするのですが、代替材使用によってコストを抑えて購入しやすくなってます。

ベニヤのラインが見えますね

代替材の使用(特に樹脂系)は賛否両論ありますが、自身は木材以外の材料はどんどん使ってみたい派です。指板に使われるエボニーは近年良品が入手しにくく、「リッチライト」といわれるパルプを樹脂で固めた材料が代替材として使用されたりしますが、湿度等の影響も受けにくいですし、工房で製作する楽器にもどんどん取り入れたいと考えてます(もちろんお客様のニーズには合わせつつですが)。

作業の投稿なのにものすごい脱線しました。失礼しました。んで今回の症状なのですが、ブリッジ剥がれとボディ割れです。これらを修理していきます。

Little MartinはHPLを使用している為か、ブリッジ剥がれの症状が多いようです。木材の張り合わせですと、接着剤が木に浸透してガッチリ貼れるんですが、HPLは表面がプリントされててめっちゃツルツルしてます。これらが悪さをしているようです。修理実例どんなんかなーと色々検索してみたら結構ヒットして、修理した後もまた再発している事例が多く手ごわそうです、、ブリッジも上記のリッチライトが使用されてるので、木材ではなく樹脂同士の接着て感じですね。

ブリッジのケツが浮いてます
浮いてます その2
浮いてます その3

そしてボディ割れなのですが、さっき手ごわいって書いたばかりなのですがこちらの方が手ごわそうな感じです。オーナー様が他の方にギターを貸した際に、落としたか何かで割れて返却されたそうで(ひどすぎる)、、それを修理してみたところ、完全には接着できなかったようです。ここらも通常の木材とは違ってHPLの為、いつもならくっつくけど再度剥がれたって感じでしょうか。というか壊したなら最低限綺麗に直してから返却しろと小一時間問い詰めたいです。

バキバキに割れてます
くびれ部。バックの1弦側は全部いってます
合わせ目のC面取りがずれてます。接着難しそう。ひぇー

作業に取り掛かります。
ボディの割れ面は剥がれた接着剤が間に挟まっており、押さえても密着しません。なのでこのままでは密着もしないし接着もできないので、一度完全にバック面を全周剥がします。ドライヤーで加熱しつつ割れてる箇所にヘラを差し込んで、バック面を剥がしていきます。

一思いに剥がします
どんどん進めます
どんどんどんどん進めます

全周剥がしていって、バック面が外せました。最初に割れた際、一部のライニング材がバック面にこびりついてしまってたみたいですね。

ボディ外周内側の蛇腹みたいなのをライニングといいます

再接着の為に、接着面を綺麗にしていきます。割れたライニング材や接着剤を除去していきます。

がっつり残ってます
そして除去後の図

バック面が綺麗になったのでボディ側を加工します。バック面に割れたライニング材がこびりついていたので、受け側の接着面が毟られている状態です。なので、ライニングを補修していきます。通常でしたらマホガニーを同じように切り出して貼り足すのですが、樹脂系の接着剤を使用するので、エポキシを充填して再成型しています。その後、ボディ側外周を面出しして接着します(接着中の写真は後述)。

ライニングは接着の土台になります

次にブリッジ側の加工に移ります。ブリッジもそのまま抑えても密着せず、掃除しないと再接着できないので一旦完全に剥がします。ボディと同じように残った接着剤を除去してきれいに面を出していきます。ノリの残り方を見るに、ブリッジ側が剥がれてるぽいですね。

掃除しかけて急いで写真撮りました
そして掃除後の図

ブリッジの方も接着面を綺麗に面出しします。一旦ブリッジをあてがってみて、外周にマスキングを貼ります。ガイドラインにする為と、接着時にノリがはみ出るので、後の掃除で楽する為です。今回のはHPL自体に木目がプリントされてて無塗装なのであまり気にしてないですが、通常のアコギですと何かしら塗装されてるのでマスキングを貼る際に気を使います。古いギターでクラックが入ったラッカー塗装の場合、そのままマスキングしちゃうと塗装が剥がれちゃうので、めっちゃ気を使います。粘着を落としてから貼る等処置が必要です。

無塗装はありがたい(心の叫び)

準備できたら接着していきます。通常、木材での接着だと接着面を水拭きしてタイトボンドで接着ですが、今回は樹脂の接着ですのでそれ用の接着剤を使用します。接着面の清掃はアルコールで拭いて、油分を除去するイメージで行います。貼り合わせ時にちょっとはみ出るくらいのちょうどいい量を両面に塗布して、貼り合わせてクランプします。ブリッジはピン穴にガイドを差し込んでいるのでそのままクランプできました。ボディ側のクランプがちょっと大変で、本来は針釘とか使ってガイドを接着面に打ち込んで滑らないようにするのですが、HPLが固すぎて針釘が打てなかったのでフリーハンドでクランプしてます。もちろん、フリーハンドと言いつつ合わせ面は確認しています。

ガイドとは、決められた位置に接着できるようにするためのものです。ブリッジとかは音程を構成したり、指板に対する弦の位置だったりを決める重要部品なので、ガイドは必須です。ずれてくっついてたら音程もバラバラになってしまいます。「ガイド無くてもぴったり位置を決めて貼ればいいんじゃないの??」って思われるかもしれませんが、接着剤を塗ったパーツってめちゃくちゃ滑るんです。ぬるぬる滑ります。ガイド無しでクランプしたら「どこいくねーん」ってくらい滑ります。なので必要なんです。

ブリッジとボディ接着中の図

ある程度放置して硬化させ、その後クランプを外し仕上げをします。はみ出た接着剤を除去し、バック面はC面取りを行って綺麗にラインを出します。それが終わったら弦を張りセットアップを行って完成です。

ブリッジ接着完
ブリッジ接着完 その2
バック面も接着出来ました
ラインを出して貼ったのを目立たないようにしてます
割れたとこも接着出来ました

一応ボディ割れ修理の比較用です。

ボディ割れも直り、本来のサウンドが戻りました。

セットアップ後

普段の楽器修理だとほぼ木材を扱うので、今回みたいに樹脂系の代替材相手の修理ですと勝手が全然違います。なので材料的な意味でいつもより気を使います。あまりにも前例がない材料相手だったり作業内容だったりとかだと、事前に試したりします。端材を使ってしっかり接着できるかとか、症状がちゃんと改善するかどうかとかですね。お客様の大事な楽器はオンリーワンですので、失敗でダメにしてしまったとかは防がないといけません。もちろん症状も改善させないといけません。しっかりした知見と技術を基に、また前例がないならリハーサルを行うなどして、確実に作業を行っていきます。

お待たせしているご依頼も進めていきます🙇🙇

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