【作業日誌】Washburn(USA) N4 ネック折れ修理

こんにちは。ミラージュリーフクラフトワークスの永野です。
今回は、Washburn N4のヘッド折れリペアの様子を投稿します。

Washburn N4 (USA) ボディはスワンプアッシュです

WashburnのN4といえば、言わずと知れたスーパーギタリスト「Nuno Bettencourt」(ヌーノ・ベッテンコート)氏のシグネイチャーモデルですね。
このモデルの一番の特徴といえば、ジョイント部の「Stephen’s Extended Cutaway」ではないでしょうか。この機構によりハイポジションの演奏性が向上し、ヌーノさんのバッキバキのバカテク(いい意味で)に一役買っていますね。

機構もさることながら名前がカッコよすぎ

木目の都合により、ジョイント部にヒビが入りやすかったりしますが、、でもこの発明はすごいなと思います。

んで、今回はネックが折れてしまったN4をリペアしていきます。

ばっくり剥がれてます
6弦側
1弦側

指板も剥がれてます


ネック折れ発生時に別の楽器店でリペアされたとのことですが、使用していくうちにまた写真の状態の様に折れて(剥がれて)しまったみたいです。なので今回は2回目の修理となります。以前の投稿でGibson J-45のヘッド折れ修理をアップしたのですが、それも別の所で修理し再度折れて、当工房に持ち込まれたやつでしたね~、、:(

折れとか剥がれのリペアに対して、初回にリペアするのと接着剤が剥がれてガビガビになった状態で再度リペアするのとでは手間と難易度が全然違います。なので、できれば折れちゃった初回リペア時にちゃんと直すことが重要です。というかお客様からしたら2重に修理費がかかってしまうので、その意味でも初回に直しきらんといかんと思います。

N4のネックは写真の様に斜めに接着される「スカーフジョイント」にて制作されています。んで、この接着面が剥がれて弦が張れない状態になっています。初回リペア時の状況がわかんないですが、前回折れたときに多分指板面もある程度剥がれてたんじゃないかなーと、、憶測はよくないですけどね。

この手の剥がれは、指板を剥がしてネックだけの状態にして、ネック部をしっかり補修してから指板を貼った方が確実に修理できます(状況にもよりますが)。修理跡を見るに前回は指板を剥がさずに接着剤を流し込んでそのまま接着したっぽいですね。リペア的にはそっちの方が楽ちんなのですが、修理方法を誤ると今回みたいに再修理になってしまいます。作業や修理の仕方でこんな風に不具合が出てきてしまう事があるので、先々どんな負荷がかかるかなとか、色々検討してリペアに取り組む事が大事だと思います。めちゃくちゃ偉そうに言ってますが自分自身にも戒めとして言い聞かせてます。

作業進めます。
全部バラバラにして現状把握とともに個々をしっかり接着したいので、まずは指板を剥がします。ヒーターで温めて、接着面にヘラを差し込みます。

スッ
スススス~

そうすると写真の様にバコッと剥がれます。

ノリの残り具合から見て、前回破損時に1F~5Fくらいまでは剥がれてたっぽいですね。再接着したところがモヤモヤと残ってます。
そんでなるほどなと思ったところが、指板とネックにダボ穴が掘られてて指板接着時にずれないようになってるんですね。再利用できるところはこれを活用して指板を接着したいと思います。

指板を剥がした図
1F~5Fあたりがモヤモヤしてますね
位置決め用のダボ

下の写真、赤印部にスクエアナットが仕込んであるのですが、ロッドを締めたときの矢印方向の荷重も剥がれの一因かもしれません。

弦の張力に抗うためロッドを締め込めば矢印方向に荷重がかかります

指板が取れたので、次にヘッドをばらします。飛び出たトラスロッドも邪魔なので、埋め木を除去して抜き取ります。

ロッドのネジを緩めたらはずれました
埋め木も除去して、ロッドを取ります。ロッドは再利用します

写真飛んじゃって無いんですが、ガタガタしてる接着面を綺麗に出して接着します。

この2面を綺麗に面出しします
材はあまり削らないようにノリを除去して、、面が出たら接着します

接着後、トラスロッドに通すスクエアナットのあたり面を制作します。(上下写真の赤印部分)これがないと弦を張った時に適切なネック調整ができません。

適当なMDF材に四角い穴を空け、テンプレートを作ります。それを用いて四角い穴をネック側に彫ります。念のために、ネックが貫通しないように彫り深さを確認してから彫ります。んで、ハードメイプル材を削りだして埋めます。この時、スクエアナットの厚み分を埋め木の全長からマイナスします。

半端材に穴を開けてテンプレートに
上のテンプレートで彫りこみ、メイプルを接着している図
こんな感じに埋まりました。ナット分空けてます

そうするとちょうどいい感じのあたり面が出来上がるので、その後はトラスロッドの位置を罫書いてロッド溝を彫ります。底面がカーブしているので、一応合わせるようにします。

赤印部にスクエアナットがはまります

で、今回はネック折れの再接着なので、確実に補強するためネック内部にカーボンロッドを埋め込みます。このカーボンロッドによってヘッドとネックをつなぎとめるパーツとして、また弦のテンションから接着面への負荷が少なくなるように通しておくパーツとしてです。繊維方向は1方向のみで、曲がりに対して強い力を発揮します。破断しにくく粘るのが補強材として効果的かなと思います。

2本を1組として使用します。チタンとかもあります


カーボンロッドを埋め込むことで、良くも悪くも音質的な影響は出てきますが、確実に修理する事が第一ですのでこの案を提案させていただきました。で、それを埋める溝を彫ります。上記の埋め木穴を彫るときもなんですが、ネックが貫通しないように念入りに彫り深さを確認し溝を彫ります。指板接着面のダボを再利用する為、放射型に彫ってます。
写真無いですが、カーボンロッドを入れてエポキシで充填します。

両サイドにカーボンを埋める溝を彫ります、その後エポキシでカーボン埋め

スカーフジョイントは接着面を境に逆反りになったりするので、このままだと指板接着面のストレートが出てません。それを解消するために指板接着面を平らにする作業をします。反ったり段がついている部分をルーターで薄く削り、メイプルを貼り、指板面と同一面になるよう加工します。すでに彫られている溝にも合わせます。

フリーハンドで彫って、ラインはノミで出してます
パコっとメイプルを貼った図。指板接着面と面一になるようにします

カーボンを埋めた後、トラスロッドを埋めます。それを埋める用の埋め木も作成します。緩いカーブを描くように溝が掘られており、ロッドもそれに合わせて曲げられていますので、埋め木もカーブが合うように加工します。切り込みを入れているのは、ロッドのカーブに合うよう柔軟性を持たせる為、また余分な接着剤を逃がす為です。

埋め木はキツすぎず緩すぎずが大事です

埋め木を接着します。ロッドやネジ部にノリが固着しないよう、ロウソクのロウをすって塗り込みます。

ギター制作にロウソクは欠かせません
接着しつつ、ロッドが固着していないかも確認します


埋めて接着した後、指板接着面と面一になるよう削ります。この後、指板を接着します(写真無いですすいません)

カンナで削り加工中。この後、指板接着しました

指板接着出来たら木部の加工はほぼ終了です。
続いて、塗装を実施します。生地調整を行い、生地に直接着色します。染料のイエロー・アンバーをベースに、バーズアイの木目が際立つようにカシューオイルを少し混ぜて着色します。

木の肌を整えて綺麗に色がのるようにします
着色した図。油性の染料は少ない回数で決めないとムラになりがち


で、今回ヘッド裏は着色していません。ヘッド裏との境目が目立たないようにしつつ、ネック側は「シーラー」→「サンジング」→「研磨後艶消しトップ吹付」で仕上げます。

塗装完の姿
姿その2
指板も綺麗に接着出来ました

塗装が終わった後は組み込みの為フレットすり合わせをして、、

フレットバフあてた後はテンションが上がります

組み込んで完成です。

N4復活です~~~

10-52ゲージで半音下げチューニングにてセットアップしましたが、問題なく修理できました。引き渡しの試奏時に「Get the funk out」のソロを弾いて聞かせてもらいましたが、修理出来栄えより「すげーーー」の方が先行してしまいました、、笑
やっぱりN4はExtremeの曲が似合いますね~

指ってこんな動くんですね(小並感)生で聞けて感動!


当工房へ持ち込み前に別の楽器店とかにも相談に行かれたみたいですが、やんわりと修理拒否されました~とお客様から聞きました。他の人が直したネック折れの再修理はなかなかに難しいので拒否する気持ちもわかります。。ただせっかく大事なギターなのにこのまま修理されず放置されるのもなんだかなーって感じで、こうすれば直るんじゃないか等を色々提案させていただき、修理いたしました。

他の投稿でも述べていますが、これが正解というわけではなく、リペアマンの数だけやり方があります。今回はネック折れの再修理に対して、カーボンロッドを埋め込みネック内側から補強を実施するやり方でしたが、他のリペアマンだったらどんなふうに修理するのか気になります。

弦の張力が修理したスカーフジョイントの接着面へ負荷としてかかる場合、ネックの握り面に補強を入れてた方が効果的な場合もあるでしょうし、とはいえナチュラルフィニッシュでの修理後の見た目の問題もありますし、色々なやり方・考察があって難しくも面白いなぁと思います。それこそキャリア何十年と重ねてきた熟練者だったらどんなふうにするのかなぁとか、妄想(?)は尽きないです。日々考えて精進し、皆様に還元できるようにします。

今回の修理も長期間お待たせしてしまって申し訳ありませんでした、、なのですが、他にご依頼して頂いている作業もお待たせしております。申し訳ありません🙇
身体と相談しつつ進めてまいりますので、よろしくお願いいたします。

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